※くっついてる。らぶらぶ。




布団からちょっとだけ腕を出せば、外はまるで別の世界かと思うくらいひんやりと冷たい。
凍えそうな手を素早くあたたかい布団の中に戻し、すやすやと眠る布団の同居人の肩を揺らした。

「流智君、ねえ流智君」
「……ん…んぅ…」
「ねえってば、起きてよ、ねえ」

何度呼びかけただろう、流智君はようやく不機嫌な、掠れた寝起きの声で、あぁ?と唸るように返事をした。
目は開いていない代わりに、眉間にシワが寄っている。そこに人差し指で触れ、上へ押し上げるようにすると、流智君の顔はあっけなく情けないものになった。
僕が、ふふっと笑って、やっと片方だけ瞼が持ち上がる。面白い顔、と思っていたら、手を静かにどけさせられた。

「目が覚めちゃって、眠れないんです」
「……んで?…」
「僕の家、眠れないとお母さんがホットミルク作ってくれるんですよ」
「…テメーで作れ」

言って、流智君はすぐにまた瞼をおろし、同時に寝返りをうつと、布団を掛けなおした。
僕に向けられた背中。予想通りすぎる反応だった。
背中にぴったりとくっつき、少しのしかかるようにしながら体を揺らせてみる。

「ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、」
「…………」
「流智君、ねえ流智君、ねーえ、」
「…あーっ!!うるせえ!!」

どっちがだ、と言いたくなるような大きな声を上げて、流智君は、ガバッと布団を剥ぐように起き上がった。
冷たい外気が、じんわり流れて来る。流智君は、大人しく待ってろ!と、まるで捨て台詞かの如く吐き捨てると、部屋を出で言った。
僕は、少しだけ呆気にとられながらも、ベッドが冷たくならないよう、布団を掛け直し丸くなった。

短い時間とは言え、待っているのは暇で、まだぬくもりが残るシーツの上を撫でてみたり、枕を入れ替えてみたり。
寝転がって、流智君が寝ていたところに沈んでいると、ようやく戻って来た流智君が怪訝な顔をした。

「…何してんだよ」
「暇だったから」
「そっちに寝んのか」
「うん」
「…ほら、牛乳」

布団から顔を半分だけ出して返答していた僕の横に、ゆっくりと座った流智君は、薔薇が描かれたマグカップを差し出した。
のっそり起き上がり、ありがとう。とそれを受け取る。
白い湯気が漂うそこに、ふうふう息を吹き掛け、一口、二口、口に運んだ。
流智君がベッドの中に入った気配は、ベッドが軋んだ音と共に感じていた。
間もなく、ふわりと僕の肩に掛かったブランケット。その気配には気が付かなくて、思わず肩がはねる。
カップに口を付けたまま、流智君を見ると、まるでしょうがない奴だとでも言いたげな顔で、僕を見ていた。先ほどと違う、優しい目。流智君はたまにこういう目をする。
コクン、ホットミルクを流し込む。のどが熱いのは、これの所為だ。

「…ありがと、」
「ああ…寝れそう?」
「うん、流智君優しいね」
「は!?バッ…オメーが寝れねえってうっとうしいからだろ」

だって、いつもは僕のワガママは聞いてくれないじゃない。そう思ったけれど、口にしたらたぶん流智君は怒るだろうし、今は機嫌がいいみたいだから、僕はいつものように、うん。とだけ返す。

「早く飲めよ」
「…うん?うん」
「…あー…さみぃ」

ぶる、と振るえた流智君は、布団の中へ潜りこんだ。
外へ出た所為で冷えた手が、いたずらに僕のお腹に触れて、ひゃっ。と声を上げると流智君の満足そうなこと。
ホットミルクを一気に流しこんで、ブランケットを布団の上にかけ、肩まで中へ潜りこんだ。
牛乳くせぇ。流智君が小さく囁いた。返すのも面倒くさいから、情事の後に戯れるように足を絡ませた。
僕はどちらかと言うと、いつもの流智君のにおい。

明日何時だっけ。10時。なんだっけ。アルタ。あ、いいかもだ。ああ。彼方君のおかげだね。オレらの実力だろ。ふーん。実力だ。ふーん。実力。おやすみ。次起こしたらどうのこうの。
普段より落ち着いた声に誘われるよう、僕はいつの間にか、眠りに落ちていた。
おでこに触れた唇には、気付かないフリをして。




100222.