》ほんとはね





「…なに見てんだよ」

横から背中がぞわぞわするほど視線を感じて、小首をかしげて見せれば、これだ。
見てたのはそっちの方でしょ。そう言うと、流智くんは黙ってそっぽを向いた。
最近、やたらと流智くんがよそよそしい。

問い詰めてやろうと、向けられた背中に飛び付く。流智くんは一度びくりとしたかと思えば、そのまま固まってしまった。
面白かったから、顔を覗きこむようにして頬を指でつついてみる。無反応だ。そう思っていたら、急に、ぐり、と動いた目と視線が合った。
今度はそのまま、じいっと見詰められる。困ったような、申し訳ないような、残念なギャグ顔ではない流智くんが、ごくり。唾をのんだ。僕を見てだ。
おかしな空気が流れ、僕の方が耐えられなくなり、目を逸らす。
顔が赤かったかも知れない。流智くんのばか。これだからばかは困る。馬鹿と書いてるちくんと読もう。

「お…オメーはよぉ…」

この空気をどうにかしたいのは同じらしい。のどに詰まらせるようにしながら、向こうから切り出してきた。
目を反らしたままではおかしい気がして、仕方なしに視線を合わせる。
すると今度は、流智くんが目を反らした。

「自分の名前で検索したことある…?」
「…そりゃ、まあ」

事務所の公式サイトを筆頭に、ウィキペディアが出てきて、応援ブログから、画像サイト。
最初こそ嬉しくて見ていたけど、やっぱり良いことも、悪いことも出てくる。
一度検索してからは、少しこわくてもうしてないけど。

「それでオレ…見ちまったんだよ…」
「…流智くん、いっぱい中傷されてるもんね」
「ちげぇよ!」

口で言うのがめんどくさくなったのか、言い難いのか、流智くんは携帯を取り出し、少しいじくった後、画面を僕に向けて見せた。

「……SPLEEN☆RANK…」

グループの名前、4人の名前が並んでいる画面。
流智くんは僕の名前をクリックすると、携帯を僕に放り投げた。
人の携帯って使いづらい。

「そこの一番上のサイトに行け」
「あっ、うん……ねぇ、本人はダメって書いてあるよ?」
「いいから。んで、小説って書いてあっとこ。パスワードに「4rs0505」って入れろ」
「……流智×碇、激裏って並んでるけど…?これ、見るの?」
「…ああ」

流智くんがおかしかった訳が、よく分かった。
僕の純情な可愛さだけは変わらないまま、お外用のきれいな流智くんも、いつもの流智くんのような流智くんも、病んでる流智くんもいる。
そんな流智くんと僕が、同性愛化されて、ひたすらえろえろな展開になっている。

「…それで流智くん、さっき僕のこと意識しちゃったんだ」
「してねぇよ!」
「やだやだ…夜な夜なこういうの読んで僕のことオカズにしたりしないでよね?」
「はあっ!?だっ、す、するわけねぇだろうが!こんなもん!オレはホモじゃねえ!」
「ねぇ、それよりなんで教えてくれたの?」
「…………」

こっそり一人で見たのでは、なんとなく僕に悪いと思ったらしい。
けどたぶん、自分が僕を意識したことを、強制的に取消したかったんじゃないかと思う。

それにしても、どうしてわざわざパスワードまで解いちゃったんだろうか、この人は。
ちょいちょい実録ネタ使ってたのを、気付かれなくてよかった。怪しいと言われたらどうしようかと思った。
これ、僕のサイトなんだけど。なんて、言わないけど、これからは少し、ネタ選びに気をつけよう。


100617.